B2「硝子戸の中」-“日常”を視る目-

硝子戸の中から外を見渡すと、霜除をした芭蕉だの、赤い実の結った梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てる程のものは殆ど視界に入ってこない。書斎にいる私の眼界は極めて単調でそうして又極めて狭いのである。

夏目漱石(1867-1916)最期のまとまった随筆である『硝子戸の中』はそういった書き出しで始まる。漱石は晩年の9年間を住み暮らした早稲田南町の借家の書斎を取り巻くベランダ式回廊の周囲に、自ら硝子の雨戸を取り付け、床冷えのする書斎の高窓から胃の痛みに耐えて庭を眺めていた。

漱石の小説が描く都市や心情は、執拗なまでの克明さを持って描き出される日常に基づいている。『硝子戸の中』という晩年の短編集は、自らの身の回りにある日常を題材として、時に懐古的に、自身の周囲について思うままに筆を走らせている様でいながら、ある特定の事物について、時系列を組み替えたり時間を重ね合わせたりしつつ、それ等を里程標として其処に刻印する作業を繰り返してく。私たちはそうして漱石の残した刻印を辿ることができる。

漱石が1日一遍の随筆を編んでいったように、作者に与えられた14日間の中で、自らの周囲にある日常を具に観察し克明に描きとることで、作者自身のポートレートを作成しなさい。

提出物:ドローイング275×275mm

枚数:表紙+4枚以上

材料:表現する方法に準拠した材料を選択すること。

出題:4月26日

提出:5月10日

講評:5月17日

 

 A+++ 1x16a054 吉川伊織

679

木彫りという筆致で、一見平滑でありながら、目を凝らすと色々な動物(ぬいぐるみ?)が潜んでいる。まるで森の中に動物達が息を潜めてこちらをじっと観察しているよう。根気と情熱に満ちた素晴らしい作品。(三浦)

 

A+++ 1x16a065 佐藤大哉

912

作者の繰り返される”日常”のディティールを克明に描き切り取った大作である。改めて、日常に向き合った時に、何でもない一コマでさえも、自らの手で彫琢された瞬間、饒舌に物語を語り始める様は、見事である。 漱石が隣家の屋根の軒先に当たる光を初夏の日の朝として描写した一節を思い起こされた。(早田)

 

A+++ 1x16a016 稲坂まりな

104

圧倒的な迫力のマンダラ的作品。始まりもなく、終わりもなく、どこまでも続いていくような絶望とも希望とも言えない、あるいはそのどちらでもある世界。他の作品が楽しみ。(三浦)

 

A+++ 1x16a071 嶋田由樹菜

1137

表現の幅を見せつけられる作品。(PC表現、モノクロ、水彩、コラージュ、鉛筆、PSD、漫画) しかし、この七人から紡がれるストーリーが気になる。ないのは分かっている。しかし、あると信じたい。そんな設計演習の日常を感じる作品。(山村)

 

A++ 1x16a002 秋山曜

64

「小休止」と題された、街の中の群集を連続的に描いた作品。 ヴォルター・ベンヤミンの言う「ヴェールとしての群集」が都市生活者としての作者にとって”日常”として自らを覆い隠していることを、グレーの鉛筆画によって表現している秀作である。(早田)

 

A++ 1x16a061 小浜まほろ

9

連休に食した一連のメニューが陳列されたロングテーブルの風景。「食は人を表す」(美味しんぼ)にある通り、製作者の一人暮らしの生活=日常が表現された作品。アイディアと表現力の双方がよく練られた作品。(山村)

 

A++ 1x16a166 吉岡桜子

67

この部屋(空間)はモナドを表している。ジル・ドゥルーズが「襞-ライプニッツとバロック-」で言及している”襞”の世界観がここにはある。 窓のない閉じられた部屋の中には外の世界とは全く関係のない自分だけの世界で埋め尽くされる。戦後のアメリカ抽象表現主義。特にオールオーヴァーで画面を埋め尽くす作家をみると良い。彼らが作っているのは、自分だけの世界”モナド”である。(TA鈴木)

 

A++ 1x16a081 鈴木新

6

製作者の熱量は感じる。しかしながら、主題の読解は極めて難解である。月・54号館・iphone etc・・・表題の漢字も判別ができず、混乱した日常の叫びをただただパネルから感じ取るのみである。(山村)

 

A++ 1x16a163 山本沙良

57

まちの中に浮かび上がる様々な「眼光」。 キャンバスにラフに塗られた闇と光。その上に重ねられたラフスケッチ。 筆の勢い、スピード感が一瞬を切り取った感じを表している。(三浦)

 

A++ 1x16a174 渡辺円

89

「142cmの日常」と題された、背の低い自身の体験を、日常のポートレイトとしてまとめた作品。 人とは違った視点を、カジュアルに表現しているが、作者なりの表現方法にチャレンジしている点が好感を持った。(早田)

 

A++ 1x16a009 五十嵐萌乃

67

作者の夜の行動がまさしく”克明”に描き出される。幾重にも重ねられた線が一種の重たい空気を出している。課題に対して真っ向から向き合った力作。 紙面の構成の仕方も上手でそれぞれが映画の1シーンを思わせる。(TA和田)

 

A++ 1x16a021 上杉謙虎

7

プラットホームに監視モニターに映る三分割画面を切り絵で再表現している。 機械を通すことで情報が平板になりディティールや筆致が消失しながらアイロニックな人間描写になっていくところが面白い。(三浦)

 

A++ 1x16a057 栗山亮

152

その通り直球でGW二週間を絵日記に書き記した作品。 作者の描くタッチが実に豊かに身の回りで起こる出来事と登場人物を描き出す。大学生の作品であることを忘れ読み入ってしまう。あえて次元を落として描くことで創造性を増幅している。表紙の説明が余計。(TA和田)

 

A++ 1x16a006 荒川怜音名

63

金魚の日常を描いた作品。 三枚目で金魚と目が合う。 ドキッとする。自分の日常、一人で部屋にいると思いきやの観察者の存在にドキッとする。(山村)

 

A++ 1x16a022 上田留理子

69

写真と、それを写しとった絵が並んでいる。  目は引くけれど、デッサンが中途半端で”対比”として成功していないので、もっと写真を描くときに自分の視点を入れて変容させた方がいい。(TA鈴木)

 

A++ 1x16a125 原田佳典

69

「慢慢走」と題された、日常の風景を独特のタッチでまとめた作品。 シンプルな線画の水彩着色でありながら、細やかなディティールにまで目配りされている点に好感が持てる。(早田)

 

 

 

 

 

 

 

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